尺八奏者の神永大輔氏を中心として、ケルトミュージックをはじめ様々な音楽シーンで活躍するメンバーが集まった新バンド“風とキャラバン”。コミックマーケット90(2016年8月14日)では彼らの初CD『はじまりの風-CROSSROAD-』が先行販売され、2016年10月1日開催の2083WEBとよみうりランドのコラボイベント内で行われるライブ“Playing Naruke Works! +PLUS”では、彼らの演奏で作曲家のなるけみちこ氏の音楽が披露されます。今回は、神永氏となるけ氏に“風とキャラバン”に関するお話をうかがいました!
取材・文:hide(永芳 英敬) 撮影:中村ユタカ

“風とキャラバン”とは

― まず、“風とキャラバン”というグループが生まれたきっかけをお聞かせいただければと思います。

神永 “風とキャラバン”のメンバーは、これまで1人のゲーム音楽作曲家さんの音楽にスポットを当てる「Playing Works!」シリーズというライブで一緒に演奏してきた仲間たちなんです。ケルティック編成のバンドなのですが、僕は前々からこのメンバーで、もっといろんな場所で演奏していきたいなと思っていたんですよ。ただ、今までバンドの名前がなかったんですね。このサウンドをもっといろんなところで鳴らして、いろんな人に聴いていただきたいなと思った時に、やはりバンド名が必要だなというところで、考えたのが“風とキャラバン”というものになります。

― “風とキャラバン”という、新たなバンド名に込められた意味や想いをお聞きしてもよろしいですか。

神永 実は、風とキャラバンという名前に行き着くまで、半年以上議論を重ねてきました(笑)このバンドが持っている幾つかの特色…ゲーム音楽、ケルト音楽、生演奏、その他僕たちが出していきたいイメージ…など、これらをまとめて一言で表すのって本当に難しかったんです。 最終的には楽しい集まりというイメージ、無国籍な「旅一座」感を伝えられる言葉として出てきたのが「風」や「キャラバン」だったのですが、「風」って僕が吹いている尺八も連想させるじゃないですか。例えば「風のキャラバン」だと「神永のバンド」ってイメージが強くなっちゃうと思うので、「風とキャラバン」という名前にしました。僕としてはこの編成の中でちょっと特殊な尺八だけじゃなくて、メンバーが演奏するすべての楽器の音に着目してもらいたいんです。 あとはこのバンドのメンバーは本当に色んな活動をしていて、常に地球上に散らばっている旅人達なので(笑)何となく「集まり」という意味で「キャラバン」を使ったのは合ってるんじゃないかなと思います。



イメージイラスト:新井 陽次郎
1989年、埼玉県生まれ。アニメーター・監督。スタジオジブリを経て、現在スタジオコロリドに在籍。
監督作に「台風のノルダ」「パズドラCM転校生篇・冬の青春篇」など



― “風とキャラバン”として音楽を紡ぐにあたって、一番大切にしていきたいことはありますか?

神永 楽器の生音感というか、“生演奏感”をいちばん大事にしたいと思っています。特に僕世代が好きなゲーム音楽って、もともと打ち込みだったものが多くて。それがアレンジアルバムとして出た時に、それを聴いて感動したことを僕も覚えていますので。

― 生演奏されることによって、より魅力を増すということですね。

神永 はい。楽器が持っている説得力だったり、生演奏することで出る力だったり。そういう魅力を、僕たちの音楽を通じて感じていただけたらと思っています。


こだわりの音作り


― 夏コミでは“風とキャラバン”の初めてのCD『はじまりの風-CROSSROAD-』が先行発売されましたね。『ワイルドアームズ』シリーズや『ノーラと刻の工房 霧の森の魔女』等、なるけさんの音楽を新しくアレンジした楽曲が収録されているそうで。アレンジはピアノの有木さん(有木竜郎氏)が担当したものと、メンバー全員でアレンジしたものがあるそうですが、アレンジの際には神永さんもご意見を出されたのでしょうか?

神永 はい。そうですね。

― アレンジする際に、こだわった点はありますか?

神永 みんなでアレンジを作っていくと、それぞれが自分の楽器のおいしいところを知っているので、それぞれの楽器の良さが引き立つアレンジや演奏に自然となっていくんです。でも逆にみんな同じような流れになってしまったり、まとまりに欠けてしまう時もあるので、そういう時はよくよく話し合いながらアレンジを作っていきました。有木くんにアレンジをお願いすると、すごくまとまったものとして作ってくれるんですけど、やっぱり楽器の奏者としては、「この楽器はこういう時、こういう風に鳴るんだよな」みたいなことをお互いに意見し合いながら、“それぞれの楽器がおいしく鳴る”ということを一番重要視して、こだわってアレンジしていきました。







― なるけさんからは何かご意見されましたか?

なるけ けっこう、茶々入れました(笑)。たとえば、全員の楽器が同じところで入ってきたりするので、みんな演奏者であり、アレンジャーでもあり、コンポーザーでもあるという側面を全員が持っているんだなと思いました。アレンジ感みたいなものは一致してるけど、でも全員が同じことをやりすぎてしまうので、「そこはちょっと(お口に)チャック!」みたいな。

神永 全員がアレンジャー、というのはすごくありますよね。

なるけ うん。だから音がかぶったとしても、何回か合わせているうちに、お互いの音を聴いてどんどん出来上がっていく感じで。話が早いなと思って見ていました。ひとつ直すと、みんな反応してパパパパッと組み立ててくれるんです。

― とてもスムーズに作っていけたのですね。現場の雰囲気も、和気あいあいとしたものだったのでしょうか?

なるけ そうですね。喧々諤々ではないですね(笑)。

神永 あと、本当にいろんな経験をしてきた人たちが集まっているんだなあ、と感じました。いろんなパターンを想定して、パッとカードが出てくるというか。「あっ、その楽器がそう来るなら、こうしよう」みたいな、お互いの性格の読み合いとかも含めながら。「ここでこの人は出てくるのか、じゃあこの人は引くのかな」とか。そういうものも含めてパパパパッと一瞬で読んで判断して動くというのは、やっぱりいろんな現場を経験してきたメンバーだからできるんだろうな、ということはすごく感じました。

― レコーディングの際には、なるけさんも立ち会われていたそうですが、ご自身の楽曲が“風とキャラバン”の皆さんに演奏されたのを実際にお聴きになっていかがでしたか?

なるけ 最初リハーサルを見に行って、その時点ですごいなと思いました。曲の雰囲気を確実に捉えてくれていて。あとは、「この曲のここは、この楽器のほうがいいと思いますよ」と言って楽器を変えたり、パートを交替したり、みんなが自由にやりだして。それで、あっという間にどんどん違和感や角が取れていって、すごい早さで曲が仕上がっていったんですよ。なかなか見られるものじゃないなと思って。バンドのやり方ってこうなんだと思って……それが一番びっくりしましたね。


メロディを大切に演奏する


― 神永さんにお聞きしたいのですが、なるけさんの音楽についてどのような印象をお持ちでしたか?

神永 なるけさんの音楽って、メロディが全部キャッチーじゃないですか。覚えやすくて。すごく整理されているような感じがするんですけど、でも曲を知れば知るほど、“気持ちがこもっている”ということがだんだん分かってくるんですよ。なるけさんはその気持ちが凝縮されて凝縮されて、ひとつの宝石になったものが曲なんだなって思うんです。

なるけ 宝石!(笑)

神永 だからそのキャッチーさとか、整理されている感じというのも計算じゃなくて、気持ちが整ってそうなっているんだなということをすごく感じます。よく“なるけ節”って言われるなるけさんの音楽らしさってあるんですけど、それも、なるけさんという人が出ているだけなんだと思うんですよね。たぶん。

なるけ はずかしい(笑)。

神永 これは、この活動をしていて作曲者ご本人と会ってお話をさせて頂いている自分の特権だと思うんですけど、こうやってなるけさんという人物も知れるからこそ、またちょっと違う理解が曲の中にあって。ああ、もう本当に曲もなるけさんなんだなって。お会いした後になるけさんの曲を聴くと、完全になるけさんに聴こえてくるんです。そういう印象があります。作曲家さんって、完全に自分を隠して計算で曲を書く方もいると思うし、コードも何も知らないけれど感覚で作っちゃう方とか、完全に計算して構築で作っていく方とか、いろんな方がいると思うんですよ。おそらくなるけさんは、感覚で作っているとかではないし、理論だけで作っているという感じでもなくて。本当に“気持ち”のほうからメロディを作っているという気がします。

なるけ ありがとうございます。良く読まれていますね。

― 神永さんがなるけさんの音楽を演奏する際に、心掛けていることはありますか?

神永 メロディを大切に、ということですね。それぞれの楽器用に色々アレンジしてはいるんですけど、でもやはり作曲者のなるけさんが大切にしているメロディの部分は絶対に変えちゃいけないと思って演奏しています。なるけさんはメロディを本当に大切に作曲されていて、そこに気持ちがすべて詰まっていると思うので。たぶん音階が1つでも違っちゃうと、全部違っちゃうと思うんですよね。なのでメロディを大切にしなきゃ、と思って演奏しています。


“旅”をテーマにした新曲


― “風とキャラバン”のCDになるけさんが書かれた新曲「CROSSROAD」について、どのようなコンセプトで作られた楽曲なのかお聞かせください。

なるけ まずはメンバーのみんなが、「Playing Works!」シリーズで私のコンサートの時にやってもらっていた雰囲気とか、神永くんから聞いていたビジュアルやイメージとか、あと構成楽器ですね。その辺から「旅」をコンセプトにしました。やっぱり“風と”って付くと、ちょっと哀愁があって乾いた感じが含まれているのが旅っぽいなあと思ったので。

あとメンバーのみんなは、いろんなバンドをやっていたりして、世界中を飛び回っているんです。ある日はあるライブで一緒に演奏して、次の日は全員が全員バラバラの現場に行って違う仲間と仕事をしたり。毎日のセットアップが全然違うわけですよ。本当にその場一期一会みたいな感じで……。みんなが集まれるのって、現実スケジュールの中で一瞬なんですよ。その集まった時の濃縮感というか、集まる前後の“旅”感みたいな。みんな集まってパッと散っていっちゃう。すごい団結力を感じるのは一瞬で。また次の現場に行っちゃうという喜びと寂しさというか、そういうものが両方ある感じの曲で。だから“旅”というのがテーマになっていますね。最初はマイナー調で始まるんですけど、だんだん音を出しているうちに楽しくなってきて、サビでやっとメジャーに転調して、最後はまたマイナーで寂しく、「じゃあね」って散らばっていくという。

― “人生における交わり”のようなイメージですね。

なるけ そうですね! で、またいつの間にか集まってとか、違う現場で8人のうちの4人で集まってとか、そういうこともあるだろうし。そういうイメージをドラマチックに想定して作曲しました。

神永 ありがたいです……!


ライブの意気込み


― “Playing Naruke Works! +PLUS”の見どころと、意気込みをお聞かせください。

神永 今までは「Playing Works!」シリーズという企画公演の中でそのたびに集まって演奏していましたが、今回は“風とキャラバン”という名前を背負ってのライブになります。ただゲーム音楽を演奏して楽しんでもらって終わりというだけではなくて、僕たちの“風とキャラバン”としての音をお届けしたいなと思っています。

なるけ スタジオワークで一生懸命作り込んだことが、ステージに乗るとまた変わると思うので、すごく楽しみにしています。たぶん、ちいさな丸がもうちょっと、花びらがついたりしてはみ出す部分もたくさんあるんじゃないかな。それが楽しみです。あと、私個人的には、会場でどんな音で鳴るかということにとても執着を持っていて。みんな本当に演奏がうまいので、もう小さいフレーズも全部拾って、そのまま最高の状態で会場の皆さんへお届けしたいと思っています。“風とキャラバン”という名前がついて第一弾のコンサートですし、まだまだここからですけど、ひとつこれまでの集大成みたいな形できっちりお聴かせしたいなと思って。当日の音作りにもこだわっていきたいなと思っています。

神永 あと今回は、遊園地という場所もあって、小さなお子さんも入場できるようになっているんですね。ゲーム音楽コンサートというと、ゲームを楽しんだ世代の方が中心になって来ていただくと思うんですけど、ご結婚されたり、お子さんがいたりという方もけっこういらっしゃると思うんですよ。僕の一番の目的としては、「ゲーム音楽はいい音楽なんだよ」ということをたくさんの人に伝えていきたいという想いがあるので、ぜひお子さん連れの方にも来ていただいて、夜の演奏もあわせてご家族で1日楽しんでいただければいいなと思っています。





今後の展望

― 今後“風とキャラバン”で挑戦してみたいことや、取り組んでいきたいことはありますか?

神永 第一の目的としては「ゲーム音楽の素晴らしさを広めたい」ということですね。あと、そのゲーム音楽と親和性が高いと思って僕たちが演奏しているのが、ケルトの音楽だったりアイルランドの音楽なので、その音楽の良さも知っていただければという想いもあるんです。今後は海外のケルトの音楽祭とか、そういう所からアプローチしたり、ゲーム音楽のほうからアプローチしたり。「純粋に、いい音楽を聴いてもらいたい」という想いがありますから、もっと場所を選ばずやっていきたいと考えています。今回やらせていただく遊園地とのコラボや、なるけさんとのコラボという形だったり、いろんな形を考えてやっていきたいと思っています。

― いい音楽を多くの人に聴いてもらいたい、ということですね。

神永 そうですね。あと、もともとアイルランドの音楽って、パブの中でみんな飲んだり食べたりしてる中で、プロのミュージシャンだけじゃなくて、そこに飲みに来ている人も一緒にセッションに混ざったりするような、そういう音楽なんですよね。なので今までのゲーム音楽コンサートの“お客さん対演奏者”だけじゃなくて、もっと一緒にその場を共有できるイベントもやってみたいですね。僕たち演奏者側も一緒に楽しみたいので。ゆくゆくは飲食も一緒にやるようなイベントだったり、野外のイベントもいいかもしれません。今までゲーム音楽って、あまりそういう場所では演奏されてこなかったじゃないですか。でも、そういう所で演奏することによって、ゲーム音楽に対するイメージも変わっていくと思っているんです。なので今回遊園地でやらせていただくのも、“風とキャラバン”の第一歩としてはすごくいいなと思っていて。開放感のある場所で、ただ演奏を楽しむだけではなく、いろんな角度から楽しんでいただける場所ですし。そういう意味でも10月1日は楽しみだなと思っています。




【チケット発売中!】「2083WEB 7th Anniversary × よみうりランド 1Day スペシャルコラボレーション」:公式サイト

はじまりの風-CROSSROAD- / 風とキャラバン:2083オンラインショップ











お問い合わせ

風とキャラバンに関するお問い合わせは下記よりメールにてご連絡ください。

お問い合わせ

Pagetop




風とキャラバン オフィシャルサイト TOP